「真の国際人とは、個人のアイデンティティーとインターナショナリティーをもった人。」
斉藤斗志二
「世界に向けてチャレンジしていく国際人が求められている。」
アグネス・チャン
芸能活動をはじめボランティアや文化活動など、幅広く活躍し、常に新しいことにチャレンジしているアグネス・チャンさん。そうした芸術・文化活動を法律面から支え応援している斉藤斗志二衆院議員。大学の同窓でもあり、共に留学の経験を持つお二人に、世界から見た日本人、そして「真の国際人」について、熱く語り合ってもらった。

 
あこがれの国・アメリカでの留学体験が、今日のベースになっている(斉藤)
斉藤: 僕は上智大学の出身で、アグネスさんの先輩になるんですよ。これからは国際化の時代だなと思って、国際性のある学校を選びました。大学卒業後に米国ワシントン大学のビジネススクールに留学したのですが、当時のアメリカは僕にとってはあこがれの国であり、「ああ、これが外国だ!」という実体験が、今日のべースになっていると思います。
アグネス: 私にとっては日本へ来たのも留学の一つですが、上智大学からカナダのトロント大学へ留学し、結婚してからもう一度、米国スタンフォード大学の大学院に留学し博士号をもらいました。香港では見えなかったものが日本に来て見えたり、日本では見えなかったものが、アメリカで見えることもありましたね。特にアメリカは、私が留学したのは八九年でしたが、学校の環境も学生や教師の質、大学を応援する国の体制もものすごく進んでいて、それはもうカルチャーショックでした。
斉藤: アグネスさんは偉いね。大学を卒業した上に博士号まで取ってしまったんだから。それにスタンフォード大学は実にいいところですよね。アメリカのトップクラスの大学の学習環境は素晴らしいですよ。
アグネス: そうですね。日本の大学は一定の年齢の人が行く場所という気がしますが、アメリカでは年齢の幅がとても広くて、それこそお孫さんと一緒に卒業するおばあちゃんもいましたね。私は長男を連れてお腹には次男もいて留学したのですが、子連れでも男性、女性でも、どんな人でも自分のペースで勉強できるチャンスがあるのは、とてもよかったですね。
斉藤: アメリカの大学は勉強したい人にはチャンスを与えましょう。でも、卒業する時はチェックを厳しくする。日本は入り口は厳しいけれども、出口はゆるくしてしまう。ですから戦後五十年たって、その辺りの弊害が出てきていますね。日本の研究力とか学力が落ちているという心配もあり、大胆に教育面を見直す必要があると思っています。
アグネス: 外国で生活していて、いいなと私が思うのは、いろいろな生き方があることに気づかせてくれることですね。どうしても一カ所だけで生活していると、その生き方がすべてになってしまい、自分の常識以外のものは考えられなくなってきます。外国で生活したり、いろいろな人と付き合うことで、いろいろな考え方や常識があり、どれが正しいかということも人によって違うのだから、もっと違いを認めて、お互いに尊重し合っていかなければということを学びました。
斉藤: 特にアメリカの場合は多民族国家ですから、価値観というものが非常に多様化していて、スタンダードなんかも随分たくさんあります。これから世界を見た時に、日本人もそのようなマルチ・スタンダードの社会に溶け込んでいく、そういう生活、そういう生き方をしていかなければならないでしょうね。


香港から日本に来た時、「なんて勤勉な国かしら」と感激した(アグネス)
斉藤: 僕がアメリカは素晴らしいなと思う点は、努力すれば報われるという「アメリカン・ドリーム」が一つの活力源になっていることですね。じゃあ日本はどうかというと、「ジャパニーズ・ドリーム」がなくなった。とても寂しいです。だから日本がもっと元気や活力を出すには、努力した人が報われる、力一杯頑張って有名になろうとする人たちを応援する社会体制が今、必要なんじゃないかな。
アグネス: 私、最初に香港から日本に来た時は、「なんて勤勉な国かしら」と感激しました。みんな小さい仕事でも、プライドを持って頑張っているんですよね。私が仕事をしている芸能界ですと、マネージャーなどは五日間家に帰っていない。仕事場でほんのちょっと仮眠して、また同じスーツを着て仕事に出かけるんですよ。それでも自分の仕事に誇りを持って、一生懸命に走り回って、みんなそれぞれ夢を持ってやっていました。そういう方たちと一緒に働けて、とても楽しかったですね。それはたぶん芸能界だけではなくて、日本全体にそういう感じがありました。でも、日本がある程度豊かになってきて、最近は勤勉ではなくなってきたような気がします。働くことが楽しいということが減ってきたように思います。
斉藤: 昔は頑張って働いていたけれど、今はその頑張りが見えない、というのは鋭い指摘ですね。戦後五十年、日本はいろいろなことにチャレンジしてきたよね。けれどもそのチャレンジは与えられたものだったんですよ。今は目標を喪失しているから、チャレンジも自ら作っていかなくてはならないのに、それができていないですね。
アグネス: 今の若者は失敗を恐れてチャレンジしないということをよく聞きますが、よく考えてみると私たちも三十代、四十代に入ったら守りに入っていますよね。バブルを経験して、少しだけれども蓄えもあって、ローンも残っている世代というのは、できるだけ貯金は下ろさないぞ、今の生活を絶対失いたくないっていう感じです(笑)。でも、そんなことでは若者にチャレンジしなさいとは言えないと思います。自分たちの子どもがちょうど夢を見つけていく世代なのに、親が守りに入っていたら、チャレンジしている姿は見せられないですよ。
一昨年、「もう一回、恋の歌を歌ってください」と言われたのですが、その時私は、結婚もして、せっかく仕事の幅も広がったのに、もし失敗したら、そういう立場も失ってしまうのではという不安がありました。それで、家に帰ってその話をしたら、子どもたちから「ママ、僕たちに夢を見つけなさい、チャレンジしなさい、失敗を恐れるなと言うけれど、それは子どもだけの話だったの」と言われて、ものすごくグサッときました。やはり自分から体を張ってチャレンジする姿を子どもたちに見せないといけないと思いましたね。おかげさまで久しぶりの恋の歌「この身がちぎれるほどに」は二十万枚のヒットとなりました。
斉藤: 僕は昨年、日本でこれまで文化芸術を振興する根拠となる法律がなかったので、文化芸術振興基本法を議員立法で作ったんですよ。今、その中で何が期待されているかというと、いろいろありますがその一つに、共通のルールの中で日本人が世界でチャレンジしていくことなんですね。例えばサッカーのルールは世界共通です。だから戦った成果、実力がわかりやすい。音楽もそうですよね。音符は世界共通ですから。そういう中で世界的なヒットを出して、世界の大スター、トップスターになる人が今、すごく求められているし、問違いなくこれから出てくるでしょう。
アグネス: 私も今年、アメリカでデビューします。二年ぐらいかけて私が歌詞を書いていて、アメリカの作曲家に曲を作ってもらっています。昨年の秋に曲ができて、すでに二回レコーディングもしました。早ければ今年の秋に、遅くとも来年早々にはこの年齢で全米デビューします(笑)。
斉藤: ぜひ新しい歌で世界にチャレンジしてくださいよ。期待しています。


違いを認め、相手を尊敬できることが国際人の基本(アグネス)
アグネス: 私は現在、ユニセフの仕事もしているんですが、いろいろな国で活動している仲間たちとEメールや電話で話ができたり、オンタイムでいろいろなことがチェックできるようになりました。故郷を離れずに世界で活躍できるのです。年齢も性別も人種も関係ない。どこまで自分の心構えがあって、人を感動させることができるかだけの価値観になってきたので、いい時代になってきたと思います。
斉藤: そうですね。バリアーがなくなり、区別がなくなり、そういう点では世界の土俵が同一化してきている時代です。これは情報化社会のおかげでもあり、こういう社会をもっと作っていかなければならないですね。
アグネス: ただ、国際化を考えていくと、私たちはこうしてみんなにチャンスがあって、たくさんの国に行けて、たくさんの国の人たちが来ています。しかしその一方で、まだ貧困にあえいでいる国がいっぱいある。たくさんの不平・不満を持っている人たち、生きていく上で物が足りない人たちを助けることをしていかなければ、私たちが望んでいる平和は絶対に保てない。テロも生まれてくるし、内戦も絶えないと思います。日本人は国際貢献をしていないと言われますが、ユニセフヘの寄付に関しては、日本人の寄付はとても多いんですよ。そういう点で、とても国際的になってきたと思います。外国に何回も行くとか、外国語が話せるなどということとは違った意味での国際化。自分の国の子どもだけでなく、他の国の子どもたちも助けてあげたい。それが一番基本であり、大切な国際人の心だと思います。
斉藤: 戦後、これだけ高度成長して豊かになって、日本の新しい目標のろに「世界の人のために」ということが、今、主流になりつつあります。今までの世界は国対国の関係でしたが、これからは個人対個人になっていくと思います。そういう意味で、真の国際人とは個人のアイデンティティーと、「世界人」という意味も含めたインターナショナリティーをもった人だと思います。
アグネス: 私は、違いを認め合って、相手を尊敬できること、自分に誇りをもてることが国際人の基本の条件だと思います。



世界の土俵でチャレンジしていく日本人になってほしい(斉藤)
アグネス: 国際人になるための日本人の最大のネックがやはり言葉ですね。自分の思い通りに表現できない方が多くて、そうするといくら能力が高くても、周りに理解されないこともありますね。やはり言葉が上手な方は、国際的にも認められています。
斉藤: 日本の英語教育は今、変わろうとしています。小学校で英会話学習が可能になり、また、中学高校ではコミュニケーション能力の育成に力を入れます。日本人の場合、ボキャブラリーが少ないので、表現力が単純化したり、多様性がなくなってしまうのだと思います。それも教育の中で直していかなくてはならないですね。
アグネス: 日本の多くの学校は中学校から英語を学習しますが、私は小学校から英語を教えて、中学は好きな人が英語を選択すればいいという発想なんです。英語を好きな子どもは、小学生でも無意識に覚えてしまいます。私はバイリンガルで育てられたけれども、母国語も英語も話せます。だから小学校からで大丈夫なんですよ。子どもの頭は柔軟だから、教えてあげれば回路がどんどん増えて、英語、日本語の回路ができてきます。先進国の中で二つ以上の言葉を使わない国はすごくまれです。
斉藤: 言葉のハンディーを克服して、世界の土俵でどんどんチャレンジしていく日本人になっていってほしいな。「頑張れ日本人」って言いたいですね。
アグネス 私も、これからもいろいろなことにチャレンジしていきますので、みなさんも頑張ってくださいね。


アグネス・チャンさん(AGNES・CHAN)
(歌手・エッセイスト・教育学博士)
1955年、香港生まれ.72年、「ひなげしの花」で日本デビューし、一躍アイドルとなる。上智大学国際学部を経て、カナダのトロント大学を卒業.89年米国スタンフォード大学教育学部博士課程に留学、94年に教育学博士号取得。98年に日本ユニセフ協会大使に就任。ボランティア活動、文化活動にも積極的に参加する数多くの著書のほか、初の恋愛小説集も出版。歌手として全米デビューの予定。
斉藤斗志二さん(さいとうとしつぐ)
(衆議院議員)
1944年、静岡県富士市に生まれる。上智大学卒業後、米国ワシントン大学ビジネススクールに留学。86年、衆院議員に初当選。以後,郵政政務次官、衆議院商工委員長、衆議院地方行政委員長を経て、第二次森改造内閣では防衛庁長官に就任。
現在、党国際局長、衆議院文部科学委員会理事。
著書に「21世紀の開拓者たち」等がある。当選5回(静岡県第5区)。


掲載紙
「自由民主」 平成14年4月23日 第2045号 Face toFace対談シリーズ 7 |